エピソード13
アドリブプレイには、憧れはあったが方法が全く判らなかった。
プロプレイヤーはどのようにプレイしているのだろうか。哲男は考えたが、答えが分かるはずもなかった。
ある日、4ビートバンドを率いている4+α年生の先輩が、理論講座を行うこととなった。
フュージョンバンドをやっている先輩達も参加しての理論講座は、部室に小さな黒板を持ち込んで行われた。
講座は音階の話から始まった。
「ドレミファソラシという音階があるよね。この音階の一つ一つの音程、つまりギャップは全音、全音、半音、…」
メジャースケールの構造の説明に続き、"レ"から始まる音階、"ミ"から始まる音階など教会旋法の説明が始まった。
先輩達はこの講座が何回目かの参加だったようで、説明を聞きながらも黒板に板書されていくことに対して、
「それは確か…ドリアンで、次がフリジアン…」
とスケールの名前を答えていた。
「次に、メジャースケールのそれぞれの音をルートにしたコードを考えて…」
講座は続いていたが、出だしから哲男は落ちこぼれていた。
全く判らなかった。内容ももちろん、単語が分からず会話自体が理解できていなかった。
こんな事がアドリブするために必要なのかと驚いていた。
講座が終わったときに先輩に質問した。
「アドリブ出来るようになるためには、こういう事を理解する必要があるんですか?」
「一度には覚えられないよな。まぁ、アドリブはコピーからやるのが良いんじゃないか。何か好きなトロンボーンの人のレコード買うか借りるかして、アドリブをコピーしてみろよ。」
と先輩はアドバイスを与えてくれた。
哲男は早速翌日、貸レコード屋に行ってみた。
しかしながらJAZZトロンボーンにプレイヤーがいるのかも判らない状態で、それらを探すのは困難だった。
何よりインストのJAZZのレコードそのものが店にある方が珍しい事だった。
仕方なくレコードショップで新品を探すことにした。探しに行く前にどんなプレイヤーがいるのかを調べた。
J.J.Jhonsonは知っていたが、アドリブをコピーするにはハードルが高すぎると考えていた。
出来れば日本人のプレイヤーを見つけたかった。
本屋によりJazzライフを立ち読みし、一人の日本人Jazzトロンボーンプレイヤーを見つけた。
「この人だ!」哲男は早速この人のレコードを探す為に、レコードショップに向かった。
忘れないように頭の中で、その人の名前を連呼しながら…
「むかい…、向井…、向井滋春。向井滋春。…」
(続く)

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